大阪高等裁判所 昭和41年(う)1137号 判決 1966年10月31日
被告人 仲村脩治
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は被告人作成の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。
論旨は、本件交差点における被告人の進行方向(北向)に対する一時停止場所指定の道路標識は、交差点の東南角に南向に設置されているものと同西南角より一七メートル西の地点に東向に設置されているものとの二個だけであるが、右各標識をもつて一時停止場所指定の道路標識であるとすることはできない。なぜなら、道路交通法所定の一時停止は該道路標識の直前においてなされなければならず、したがつて該道路標識は道路の側端に設置しなければならないのに、前記各道路標識は本件交差点において実際に停止しなければならないところに設置されていないからである。しかるに、原判決は本件交差点が道路標識によつて一時停止すべき場所と指定されていた旨認定しており、これは事実を誤認したものか法令の解釈適用を誤つたもので、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。というのである。
よつて案じるに、当審における事実調の結果によれば、昭和三五年京都府公安委員会告示第五一号、昭和三九年同委員会告示第六六号により、一級国道新九号線(山陰街道)道路に交差する府道宇多野嵐山樫原線道路の入口を道路交通法四三条の一時停止場所に指定する旨定められていることが明らかであるが、右一時停止場所の指定は道路標識又は道路標示を設置して行なわなければならず(同法九条二項、同法施行令七条一項)、その設置場所等については総理府令・建設省令で定められる(同法九条三項)ところ、同道路標識は、原則として、一時停止しなければならない場所として指定する場所内の必要な地点における路端に設置しなければならず(昭和三五年総理府・建設省令第三号、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令二条)、また、一般に道路標識を設置するときは、車両等がその前方から見やすいように、かつ、道路又は交通の状況に応じ必要と認める数のものを設置しなければならない(同法施行令七条三項)のである。
本件についてこれをみるに、原審における証拠調の結果によれば、本件交差点はほぼ南北に通じる道路(府道宇多野嵐山樫原線)とほぼ西南方向からほぼ東北方向に通じる道路(一級国道新九号線)(両道路とも歩車道の区別はない)が斜に交差しており、別紙略図のとおり、その東南角(C点付近)は両道路の直線側端がそのまま交わつているが、西南角においては府道道路の西側側端がB点から漸次西に曲り、A点において国道道路の南側直線側端に連つていること、および、C点付近の路端に一時停止場所指定の道路標識が南向に設置され、A点付近の路端に同様の道路標識が南東向に設置されていること、ならびに、BA間の路傍はガソリンスタンド前の広場になつていて見通しを妨げる物件はなく、両道路標識とも、その手前にたまたま他の車両が介在する場合以外、府道を北進して同交差点に至る車両の運転者にとつてその前方を十分に認識することが可能であることが認められる。
右に認定したところによれば、A、B、C、Aの各点を順次直線で結んだ三角形内の道路の部分は、南北に通じる府道道路の一部にほかならず、交差点の概念が相交わる二以上の道路の交通の安全と円滑を図り、危険を防止する目的のもとに定められていることや、げんに法令が交差点における車両等の交通方法として定めているところに照らすと、同道路部分が同時に国道道路の一部分でもあり、したがつて交差点の一部であると見るのは不合理であり、C、A両点を結ぶ直線以北が交差点であるといわなければならない(交差点の範囲に関する名古屋高等裁判所昭和三七年一一月二六日判決(高等裁判所刑事裁判例集一五巻八号六四四頁)の判示は本件の場合に適切でない。すなわち、前記各告示にいうところの右国道道路に交差する右府道道路の入口とは、本件交差点の南側においては右C、A両点を結ぶ直線付近のことを指すのである。従て前記両道路標識は、その設置場所、設置方法からして右各告示と相まち、府道を北進して南から右交差点に入ろうとする車両に対し、右両点を結ぶ直線付近(右にいうところの入口)が一時停止をしなければならない場所であることを指定するに十分であるといわなければならない。
なお、被告人は、A点の手前約二七メートルかつC、A両点を結ぶ直線の手前約三六メートルの地点(別紙略図のD点付近)でいつたん停止をしたとしても、その後は停止することなく北進し、C、A両点を結ぶ線を超えて右交差点内に入つたことは記録上明らかであるから、所定の一時停止場所に停止したことにはならないのである。結局、原判決には所論のごとき事実誤認または法令の解釈、適用の誤りはなく、論旨は理由がない。
よつて、刑事訴訟法三九六条により主文のとおり判決する。
(裁判官 山田近之助 瓦谷末雄 岡本健)
別紙略図<省略>